味覚と唾液

「パブロフの犬」という実験をご存知の方も多いと思います。
犬にベルを鳴らしてからえさを与えると、やがてベルを鳴らしただけで、犬がだ液を分泌するようになる、という条件反射の実験として知られているものです。
 そしてもうひとつ、パブロフの犬が示しているのは、食べたくなると唾液が出る -> 食べる時には唾液が必要? ということでもあるかもしれません。
 これまでも唾液の働きとして、唾液に含まれるアミラーゼという酵素がでんぷんを糖に変えて、消化を助け胃腸の負担を軽くする
パサパサとした食感で呑み込みにくい食べ物でも、唾液とまざるとまとまって噛みやすく呑み込みやすくする、といった働きを取り上げてきました。
 今回は、唾液は味わいにも関係するという話です。

 私たちは、味蕾という舌や上顎にある味を感じる器官を通して、味を感じています。
 味が味蕾に到達するには、食べ物の味を構成してる物質が、唾液に溶け込んではじめて届きます。その意味では味覚を感じるには唾液は欠かせません。
 もし唾液が少ないと味わいが味蕾に届かないだけでなく、味蕾の部分の潤いが減って、摩擦で炎症を起こし、味を感じにくくなることもあります。
 さらに味蕾が働かなくなってしまったり、味蕾自体が無くなってしまったりすれば、食べ物の本来の味がわからなくなる「味覚障害」になってしまう可能性があります。

 もうひとつ、唾液には強い刺激のある味を緩和する働きもあります。辛いものや酸っぱいものを取ったときに、刺激を緩和してくれているのです。
 病気やその他の原因で唾液の分泌が減っているときに、刺激の強いものを食べるとダイレクトにその刺激が伝わり、痛いとさえ感じることがあるのはこのためです。

 また唾液の量や質も味を左右します。唾液の分泌は、交感神経と副交感神経の自律神経によって制御されています。
 唾液がたくさん出るのはリラックスした状態の副交感神経優位のときです。水分も多くさらさらした唾液です。この状態であれば良質な唾液が口のなかにたっぷりあって、食べものもおいしくいただけます。
 逆に緊張度が高いと交感神経優位となってネバネバとした唾液となって分泌量も少なくなります。いわゆる「緊張して飯がのどを通らない」状態です。 これではおいしい食事も味が十分にわかりません。

 食事はいつでもリラックスしながら、ゆっくりとよく噛んで、食べもの本来の味を堪能したいものです。