「むし歯」という言葉

 今回は「むし歯」そのものではなく、「むし歯」という言葉について書いていきます。
 「むし歯」はむし歯菌という細菌によって酸が生成され、その酸が歯を溶かす病気です。

虫に食われたわけでもないのにどうして「むし歯」なのでしょう。
虫たちもいい迷惑だと言っているかもしれません。
 しかし19世紀に、「むし歯」の生成プロセスが明らかになるまで、西洋や中国、日本も含めて、多くの地域で、むし歯の原因は、まさに「虫」が歯を食べてしまうため、と考えられていたようです。
 「むし歯」と同じ意味の言葉として「齲歯(うし)」という言葉があります。もともとは漢語である「齲歯(うし)」が、平安時代中期に編纂された和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)という辞書には、「ムシカメバ」という和語が充てられているそうです。
「ムシカメバ」を「虫が噛んだ歯」と取れば、昔から「むし歯」にはムシが関係している、と考えられていたとわかります。

 近代になって「むし歯」は虫が原因ではないとわかってからも、
「むし歯」=「虫が原因」という考えがなかなか払拭されないようです。
そのことを裏付けるような動きがあります。
 文部科学省は子供たちが「むしばは虫が歯を食べることでできる」と誤解を招く恐れがあることから、ひらがな標記の「むし歯」を使用するよう推奨しているのです。
 しかしこの動きは一枚岩とはなっていないようで、出版業界やマスコミから異論が出ています。「むし歯」は「かな漢字入り混じり」語であることから校正で引っかかるそうです。彼らとしては「虫歯」と綴ってほしいようです。

 なんだかややこしいむし歯論争ですが、「むしば」という病気がこの世からなくなるまでこの問題は解決しないかもしれません。
その日が来ることを目指して、毎日のブラッシングでむし歯を予防しましょう。